2011年5月11日水曜日


5月9日 パート1 @オスロ
 今日もオスロの空は青い。
 ユースホステルからトラムに乗って15分。「Skippergata 14」というアドレスを頼りに、ノルウェーのストリート・マガジン『エルリック・オスロ』の事務所にたどり着いた。
 一歩足を踏み入れると、クリスチャンと目が合った。「ハーイ!」と再会を喜び合う。クリスチャンとは、偶然ロシア・サンクトペテルブルグのストリート・マガジン『プット・ドモイ』を訪れた時期が一緒で、「オスロに来るなら、案内するよ」と言ってくれていた。1週間の間に、2都市で出会えるなんて、これも縁だなーと思う。
『エルリック・オスロ』は、英国で本家本元の「ビッグイシュー」に出会ったグラフィック・デザイナーのヴィベッカが「オスロでも、英国の『ビッグイシュー』のような雑誌をたちあげたい!」と思ったのが、そもそもの始まり。04年8月、共通の友人をもつクリスチャン、スティヤンが、ヴィベッカとともにオスロ版「ビッグイシュー」の構想を練り始めた。
スタイリッシュで、質のいい写真を多用する―――アイディアはあるものの、先立つものがない。「そこで、政府に手紙を書いたんだよ」とクリスチャン。「それこそたーーくさんね」と笑う。でも、政府からは、なしのつぶてだった。
 それなら、と、クリスチャンはビデオ・カメラ片手に路上に出た。通りで物乞いをしている人たちにインタビュー。「これは人生の最悪のかたちさ。誰も僕には注意を払わない。もはや僕は人間とは言えないかもしれないね」といった彼らの台詞を収録したその映像は、ついに政府を動かし、得た助成金で、05年6月、クリスチャンたちはストリート・マガジン『エルリック・オスロ』の創刊号を刷ったのだった。
「その助成金で1万部を刷ったんだけど、なんと10日くらいで売り切れてしまったんだ。結局創刊号は、3カ月で9万部売れたんだよ」
 あれから、6年。このストリート・マガジンはすっかり街に溶け込み、この国の王室とも良好な関係を築いている。最近、『エルリック・オスロ』の販売者ヨハンソンをフィーチャーした『Vendor 329(販売者329)』という映画が封切られた。この映画に関してインタビューを受けたヨハンソンは「僕は王室の大ファン。この国の王様、女王様にもこの映画を見てほしいな」と語ったところ、その記事を見た2人が、実際に映画を見に訪れてくれたという。
「まるでおとぎ話みたいだね」と言うと、「いやーほんとに」とクリスチャン。
 今年9月23日には、ホームレス状態の人たちが撮影したショートフィルム映画祭をオスロで開催するため奔走しているクリスチャン。「できれば毎年恒例の映画祭にしたいね」と語る。『エルリック・オスロ』から始まった人の輪は、まだまだ広がりそうだ。

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